・BL小説
・本編とは関係の無い番外編
「楓さん、手を下ろしても大丈夫ですよ」
「庵は手馴れてるね」
「毎日、怪我しまくってますからね」
俺は手に持っていた包帯や薬を自分の鞄にしまった。
俺のその動作を楓さんはじっと見ている。そして俺と目があうとニコリと笑う。
俺の顔なんだけど何故か花がある・・・・中身が楓さんだからだろうか?
「さっきも言ってたけど、そんなに絡まれるの?」
「そうですけど、絡まれても買わなきゃいいし、
それにほとんどは自分から吹っかけてますね」
「庵のことだから『その吹っかける』のも誰かが困っていて助けてるんでしょ?」
「・・・・・・」
楓さんは俺の事をピタリとあててくる
さっきから緊張するのは、楓さんとのこの閉鎖的空間の所為もあるが、ほとんどは
この話し合いの中で俺という人間の見透かされている所為だ
正直、ここまでドンピシャにあてられる事がないので驚いてしまう
「楓さんは人間の本質を見るのが得意なんですね。
さっきから、あたり過ぎていて驚くばかりですよ」
「そう、なんか庵にそう言われると嬉しいな~」
俺の顔なのに、ニコニコと嬉しそうに笑うさまが可愛いと思ってしまう俺は
ちょっとヤバイ位置に行っちゃいそうなのか?
「そういえば、庵の家に連絡って入れなくて大丈夫なの?」
「それなら、母にメールで連絡しておきましたから大丈夫です」
「そっかー・・・・」
なんでこの人はそんな残念そうな顔をしてるんだ
俺が年下だから世話でもやきたいのか?
俺がそう考えている間に、楓さんは次を話題をふってきた。
「庵、食事はどうする?何でもいいなら今日は出前とるけど?」
「俺は何でも、近くにあるコンビニでカップラーメンでもいいですけど」
「だめだめ、そんな!ちゃんとした物を食べないと!」
「・・・・・はい」
何故か、物凄い剣幕の楓さんに押されてお寿司の出前になってしまった。
電話に話しかけていることからして特上なんて聞こえてくるけど・・・俺の幻聴だよな?
――― ガチャン!
「後30分くらいで出来るそうだから、その間にお風呂にでも入る?」
「・・・・・・・・・・・風呂、ですか?」
「うん、入るんだったらすぐに仕度できるけど」
「・・・・・・えーっと、入ってもいいですけど俺の体は楓さんの物なんですが」
「へ?」
俺が俺に小首を傾げている。可愛いとか思ってないで俺、説明しようよ!
「楓さんは俺に裸みられて大丈夫なんですか?目隠しして俺の体洗ってもいいですけど」
「庵、大丈夫だからお風呂入っておいでv」
楓さんはそう言うと、お風呂のスイッチを押して、戸棚からタオルとパジャマや下着をだしてくれた。
「はい、どうぞ」
「・・・・ありがとうございます」
こんなに簡単に他人に裸を見られていいのか?
男同士だからいいってことだよな・・・・俺ってば勘ぐりすぎて馬鹿みたいだ
風呂場の戸を開けると、一般家庭と比べたら広めの脱衣所があり、その置くにはガラス作りに
なっている片手扉が見えた。ガラスは向こう側が見えないようになっているが
風呂の中は電気がついており、ドボボボと大量のお湯にお湯があたっている音がする
俺は服を脱いで、手ぬぐいを手にして風呂場に入った。
入った瞬間に等身大の鏡が表れて自分の姿が映し出される。
お湯の煙で全部を見なかったが俺は慌てて、鏡から目をそらしてタオルを腰にまいた。
顔が羞恥心や驚きなどで熱くなっていくのを感じる
横に目をやると、白いタイル張りの内風呂と、その風呂の横に扉がある。
ガラスが曇って見えないので、俺は近づき手で曇りを消した。
「・・・・・外にも風呂がある」
俺は扉のノブを回して、外に出た。
少し肌寒い風が吹くがそんなの気にしていられない。
内風呂と同じタイル張りで作られた円状の風呂がある。周りは観葉植物などが置かれていた。
外の景色は先ほど見たものとは違う、山と月の情景が見えた。
俺はただただその光景に唖然とするしかなかった。
――― ここ、凄すぎだろ
周りには10階以上の建物がないのでこの景色を邪魔するものはなかった。
そして、この静けさ・・・・車の音も人のざわめき声も聞こえない
俺はライトアップされている風呂に腰までつかった。
「キモチイィ~」
そんな言葉が自然にでてきてしまうほど
この場所は居心地がよかった
「・・・・他の階もすっごいんだろうな~」
――― パシャ・・・・・
お湯を手の中で入れて月を手の水に映した。
お湯の波に月がユラユラとゆれる
「綺麗だな・・・・」
最高の癒しの環境だと思う
綺麗な情景 綺麗な整理された部屋 セキュリティー完備
他にも様々なオプション付の優れた物件だが、
俺はここを気に入りはしたが好きにはなれなかった。
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液晶テレビから聞こえる音とシャワーの水が流れる音が聞こえる
この部屋に俺以外の人がいる
その人が 庵 なんだということに
嬉しさがこみ上げてくる
「それにしても、庵ってば可愛いな~」
自分の姿であったが、俺の裸を見ることに少し緊張していた。
その様を思い出すたびに、可愛くて顔が緩んでしまう
ずっとこのままだったらいいのになーと思ってしまうが、そうもいかない
庵には家があるし、学校がある
早く元に戻ったほうがいいのだけれども・・・・・
「どうして、入れ替わってしまったんだろうか?」
入れ替わった場所は、あの大きな木の下。
庵を見た瞬間の
あの嫌な感覚と何か関係あるのかな
「楓さん、お風呂ありがとうございました」
脱衣所から庵が出てきた。
肩にはバスタオルをかけて、いつも俺が着ている白いパジャマを身に着けていた。
「楓さん、この制服どうすればいいですか?」
「あ、それは・・・・・そういえば、拾ったハンカチ学校に渡さなかった!」
「ハンカチ?」
俺は慌てて、自分の制服のポケットからハンカチを取り出して
汚れがないか確認しようとしたが、何処を探してもハンカチはみつからなかった。
「・・・・転んだ拍子に何処かにいっちゃったのかな?」
「楓さん、ハンカチ失くしたんですか?」
「俺のじゃなくて、庵と裏庭で会う前に校舎の横手の木にハンカチが引っかかって
いたからそれをとったんだよ。真っ赤な赤いハンカチなんだけど、何処いったんだろう」
俺がその話をしている間、庵は黙っていた。
静かに聞いてくれてるんだと思って視線を向けたら、庵は真剣な眼差しで床を見て
何かを考え込んでいるようだった
「・・・・庵、どうしたの?」
「すみません、もしかしたら入れ替わったのは俺の所為かもしれません」
・・・・・え?
入れ替わったのが庵の所為?
「なんで、そんな・・・・」
「俺がいた裏庭の・・・あの木は噂があるんです」
庵は俺から視線を外したまま、話を進めていく。
「あの木は大正の頃からあると言われている大木です。
あの木の下で昔、ある夫婦が小さなすれ違いをして、夫が死んだと言われています。
その事からあの木の下である事をしてはいけないと言われているんです。
学校の生徒はその噂を試すために、何度かカップルで肝試しや冗談半分で行っていました
けど、噂は噂で・・・・本当のところはどうなのか」
「庵、木の下で何をしちゃいけないの?」
庵はその言葉をきくと、一度こちらに視線を向けたが
また床に視線をおとして、ゆっくりと唇を動かして言葉を紡いだ
「・・・・・木の下で、一緒にいる相手を疑ってはいけない」
「死んだ夫は妻を信じられませんでした。
もしも、夫が妻を信じていれば免れたことなんです。
その事から、この下では決して他人を疑ってはいけない。
そうした場合、その相手は『呪い』を受ける」
木の下にいる相手を疑ってはいけない
相手を疑えば呪いがかかる
「・・・・・庵は俺の何かを信じられなかったの?」
「・・・・・・・・・・・・」
「俺、何か庵に嘘ついちゃったかな?」
その言葉に庵は微かに肩がゆれた
けれど
顔は下を向いたまま
俺をみてくれない
「楓さんは何も・・・・・何も悪くありません」
――― ピーンポーン ピーンポーン
インターホンが静寂の中に鳴り響いた。
「お寿司がきたみたいだね」
俺は制服を近くにあるソファの背もたれにかけて玄関に向かった。
後ろをチラリと見ると、庵はまだ床に座ったままだった
庵が俺を疑ったということは
俺の何かが庵を不安にさせているという事だ
扉を開けて寿司を玄関前に置いてもらい、お金を払った。
寿司を両手で持ち、庵がまつリビングに向かう
庵は俺の何を不安に思い
疑ってるんだろうか?
そんな疑問がぐるぐると内で巡りながらも、俺は寿司を机において
お茶を準備する。庵は机に座ってもらっている。
俺も前の席に座って庵に小皿としょうゆを渡した。
「さ、食べようか。お腹すいたし」
「はい、頂きます」
こんなにも君との距離が近いのに
君が遠く感じる
・本編とは関係ない番外編。
・BL小説
真っ直ぐに伸びた、白いタイル張りの廊下。
柱は磨きあげられ、電灯の光が反射してキラキラ輝いている。
廊下の奥には大きな窓が見え、空は真っ黒く染まっていた。
最初はそんな回りの光景に気をとられていて気付かなかったが、
よく見るとこの通路に違和感がある。
「・・・・楓さん、質問いいですか?」
「ん、何かな庵?」
楓は自分の鞄から家の鍵を取り出して、鍵穴にカードキーを入れた。
――― ピ ー ッ ――――
「何で此処の廊下って、この扉一つしかないんですか?」
そう、俺の思い描いているアパートやマンションには通路があり、
その壁には複数の扉が見えるのだ。
それなのに、この通路・・・廊下には
今、俺と楓さんの目の前にある扉一つしか設置されていない
「あぁ、このマンションは10階以上からは一つしか部屋がないんだよ」
――― 嘘だろ、おい・・・・
この廊下は端から端までが結構長い、それにこのマンションの作りからして
奥行きもあったはずだ。
・・・・俺、楓さんが御曹司だってこと知ってたけど、俺の予想を遥かに超えすぎている。
ガチャ・・・と扉の開く音とともに、オートロック式の扉が開いた。
中も予想よりも広くて綺麗だ。まるで、モデルルームの様な感じがする。
「さぁ、庵。入って、入って」
「あ、はい・・・・お邪魔します」
ニコニコしながら俺の靴を脱ぐ姿を見ている、俺。
・・・・相手は楓さんなんだけど、今だにこの状況になれていない自分がいる。
居間に辿り付くまでに、トイレ、風呂などに案内された。
廊下の最奥にある扉を開けるとリビングがあり、大きなガラス窓から綺麗な月と夜景が映し出されていた。
俺は、その景色に釘付けになった。
「・・・・・・綺麗だ・・・」
ビルや家の明かり、車のライト、電灯の光、様々な光という光の洪水が真っ黒な闇夜に
浮かび上がっている。その上空には孤高の輝く月がいた。
「気に入った?」
ガラス窓にへばりついている俺の横に、楓さんが立つ。
「はい、すっごく綺麗です!」
「ここはね、花火大会のときも綺麗に見えるし、春の桜景色や秋の紅葉も綺麗に見れるんだよ」
「・・・・そう、なんですか」
「庵、今さ・・・すっごくカメラ持ってくればよかった!!!なんて思ってたりしない?」
――――― ドキン! ―――――
なんで、俺の考えていることがわかったんだ?
楓さんはクスッと俺に笑ってみせた。
「そんな顔してたよ。景色見ながら綺麗と思いながらも、なんか悔しそうな顔しててさ」
「・・・・・うっ、確かに・・・・そう思っていました」
この人、なんか鋭いな~・・・・
「いつでも来てもいいよ」
「・・・・・・・え?」
俺は夜景から視線を外して、楓さんに視線を向けた。
楓さんは俺にまた優しく笑いかけてくれている。
俺は自分の顔なのに、それを見てドキリと胸が高鳴った。
「いつでもおいで、庵ならいくらでも俺の部屋に入れてあげるし、写真もたくさん撮ってもいいよ」
「・・・・・・でも、迷惑じゃないですか?」
「いいよ、庵がかけてくれる迷惑なら大歓迎v」
どうしよう
わけがわからない
「・・・・・・あの、トイレ借りますね」
「あ、うん。その扉を出てすぐ右にあるからね」
「はい!」
自分の顔なんだ、俺が俺に笑ったんだ
中は楓さんなんだけど
笑ったのは俺で
けど・・・・・
―― 『いいよ、庵がかけてくれる迷惑なら大歓迎v』 ――
そう、俺に言ってくれたのはあの人なんだ
―― バタン!!!・・・・カチッ・・・・・
「俺、本当に落ち着けよ、あんなの社交辞令だろうが!」
信じちゃいけない
あの人は誰にでも平等に優しいんだから
俺はそれに馴れあっちゃ駄目なんだよ!
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庵が突然トイレに行ってしまった。
しかも、かなりの猛烈ダッシュだった。
「誘い方が不味かったのかな?」
先程の誘いかたは
あまりにも、あからさま過ぎだったか?
この部屋には高校に入ってから引っ越してきた。
親も兄弟も誰も入ったことはない。
いや、入ろうとしても玄関で用を済ませていたから入れた事がないが正しいだろう。
自分の領域に他人が入ってくるのは、俺は嫌いだ。
しかも、ここは俺のお気に入りの場所だから余計に入れたくないのだ。
けど、庵が玄関に入った瞬間、今までの奴らとは違った
横目でガラス越しに見える景色を見る
冷たいガラスに映し出される、俺の最良の場所、最高の光景
「ずっと、このままだったらいいのに」
この場所に庵がいる
今、俺が考えていることは一つだけ・・・・
――― どうすれは、彼を此処に縛り付けられるだろうか? ―――
「・・・・・楓さん」
――― ドキ!
後ろを振り返ると、扉を開けた俺がたっていた。
「な、何どうしたの庵?」
心臓の音がバクバク煩い
今、俺は考えていることを言葉に出していたか?
「傷の包帯を替えようと思うので、ソファに座ってもらってもいいですか?」
「・・・・あ、うん」
俺は内心ほっとした。
「それと、お湯も沸かしてもいいですか?」
「あ、いいよ。真っ暗だし、明かりもつけようか」
俺はカーテンでガラス窓を多い、明かりをつけた。
真っ暗だった世界に光があたり、俺の影がより濃く浮き上がった。
・庵&楓のチェンジもの(BL小説)
・本編とは関係のない番外編
・何気に序章が1番始めになります。
えーっと様は、ぶつかった所為で俺と庵が入れ替わっちゃったって事か!!!
「ありえない、何がどうなって・・・・」
俺は自分の手をマジマシとみる。
自分のと比べて大きな手、先程まで着ていた制服と違う色。
そして、何よりは・・・・
――― 髪の毛が真っ赤だよ!!!
これで俺が庵だというのが断定。
目の前の俺の外見をした庵は難しそうな顔をして下を見ていた。
「・・・・庵。何処か痛いの?」
俺がそう問いかけると、庵は俺に視線を向けてニコリと笑ったが、
何故かその笑みを見て無性に抱きしめたくなった
「・・・・・楓・・・さん?」
「ごめん。なんか、ほっとしただけ」
木の下にいただけで人が消えるわけなんてないけど、自分が今この手に抱きしめているのが
庵なんだと確かめたくて、抱きしめていた手を頬に移してじっと顔を見つめた。
俺の顔だけど、その困った表情はまさに庵のもので、それを見てやっと安心した。
――― ズキッ!!!
・・・・あれ、なんか左の脇腹がズキズキと痛い。
自分の手で痛い部分を触るとその部分には包帯が巻かれている感触がする。
制服をめくりあげると、微かに赤く滲んでいて痛々しかった。
――― こんなもの、いつの間に・・・・・・
「あ、痛いですか・・・楓さん」
「・・・・庵、この傷って?」
自分の顔が苦笑をこぼして話し出す。
「ちょっと昨日、一人で外を歩いていたら他の学校の奴らに絡まれまして、
俺の外見が外見なだけに目をつけられ易いみたいなんですよね」
「っ・・・・!!!」
俺は庵の手(俺の手)を掴んだ。
「もう、庵帰るよね?」
「・・・・え、はい」
俺は回りに落ちている、庵と自分の鞄を掴み学校の敷地内をでた。
俺に手を握られたままの庵は、俺に声をかけたいみたいだが
こんな公衆の面前で「楓さん」とは呼べないのだろう
俺を見ているだけで何も言ってこなかった
俺達は近い駅から電車に乗った。向かう先は俺の家。
現在一人暮らしの俺は、こんな困った状況の時には好都合の住まいになっている。
庵はずっと黙ったまま、困った顔で俺を見ている。
わかってるよ。何処に行くのか不安なんだよね。
わかってるけど、今イライラしている自分が何を話し出すのかが怖かった。
俺は、庵の体が傷ついていることからか椅子に座らされた。
庵は俺の前の電車の手すりに捕まり立っているが
・・・・・少し様子が変だ。
何故か後ろの方を気にしている。
満員なのだから、誰かがぶつかっ・・・・・・・
現在の庵は俺の外見だ
いつも、俺が電車に乗ったときのパターンとしては
俺は座っていた席から立ち上がって、自分の体を席に座らせて、後ろを睨んだ。
後ろにいた男はやはり鞄を足ではさみ、両手が自由な状態だった。
「・・・・・あんた、今・・・何していた?」
俺がそれを一言言うと、男は開いた電車のドアから駅のホームに走っていった。
――― やっぱりかぁ!!!!
あの、あの人間が庵に痴漢していたのだ!(自分の体ですが)
何処触られたんだ!太もも、脇腹・・・尻?
あいつぅーーーーーー!!!睨むだけじゃなくて、足の一つも蹴り上げで腹に拳の一つでも
メリこませておけばよかったぁあああああ!!!!
だけど、そんな事したら被害は庵にいってしまう!しかも怪我してるから体に響くし!!!
俺は自分を落ち着けるために深呼吸して、男の方を見たあとに
庵に視線を向ける。庵は吃驚した顔で俺を見ていた。
庵の両側に座っていた人も突然の出来事に吃驚し、そして突然自分の隣に綺麗な少年が座ったので
携帯や本を見ながらも横目でチラチラ見ている。
その態度がいよ~にイライラと苛立ちを再発させようとするが、そんな事よりも・・・・
俺は電車の発車の合図がなったので、手すりを掴んだ。
「・・・・えっと、か・・・庵さ・・ん?」
あ、そっちの名で呼んじゃったか
俺は柔らかな笑みを庵に向ける。
何故か
両側に座っている奴まで顔を赤めていた
庵の外見がカッコいいのはわかってるけど、
他人が庵と見て頬を染めるのはムカツク
・・・・・が、この際無視だ!
「楓、ごめんね。気付くのが遅くなっちゃって」
「・・・・あ、いや、それは」
庵のことだから、俺のことを心配したんだろう
傷ついた体のままの俺を気にして、痴漢ぐらいで騒がないでおこうと
庵の優しさは嬉しい 俺のことを気にしてくれてるってことだから
でも、その優しさが今はとてもツライ
庵と俺の間に
見えない壁ができてるみたいで・・・・
もっと俺に頼って甘えてほしい
まだ会ったばかりで間もないけれど、俺は君に必要とされたい
何時 何処でも どんな時でも
俺は君が呼ぶんだったら駆けつけちゃうのに・・・・
駅が目的地についたので俺と庵は電車を降りて、自分の住まいに向かった。
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―――― ガタン ガタン ガタタタン
地面の下から電車の通る音が聞こえてきた。
俺は生まれて初めて、痴漢・・・というものに遭遇した。
あれはもう、精神的虐待だ。気持悪いってものじゃない、一瞬体から血の気引くほどの恐怖が漂う。
俺の外見ではないのは分っていたが、まさか電車の中でこんな目にあってしまうとは
・・・・しかも、楓さんはそれに気付いていた
多分、楓さんは電車に乗ると高い確率で痴漢にあっていたのだろう
彼の外見は本当に整っている
入れ替わった俺は、学校から出た瞬間に皆の不躾な視線にさらされた
いつもは好奇心や憎悪などに近い目で見られがちだったが、
今回は違う目で見られている事に戸惑いを隠せなかった
好機の目で見るもの
頬を染めて立ち尽くす人
そして、欲の対象としてみている人間
俺は前方を歩いてる自分の姿に目を向けた。
目立つ赤髪、緑の指定制服。まさしく俺の外見だが、今は楓さんが中にいる。
待っていた横断歩道の信号が青に変わり、俺達二人はそれをわたった。
結構、大きな駅で下りたので人通りが多くて、歩きにくい。
楓さんはそんな俺に気がついて手を握ってくれる。
「大丈夫、楓?」
「はい、大丈夫です。庵さんの方こそ、体・・・大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ。・・・楓こそ大丈夫?」
――― ドキッ!!!
「きつい様なら、もう少しで着くけど店で休む?」
「・・・・あ、いえ、大丈夫です」
「そっか・・・・もうちょっとだから、頑張ってね」
彼はそう言って、俺に優しく笑ってくれる。
『楓さんの方こそ、その体で立っているの辛いでしょ?』
歩くたびに傷が痛んで、俺だったら顔が歪むのに・・・・
あなたはそんな素振りを微塵も感じさせない
そのうえ、俺の方の心配ばっかりして
他の学校の一つ下の後輩
あなたにとっての俺なんてそれくらいの存在
あなたと俺には他に何にも
繋がる関係はないのに
そんな俺にも、あなたは優しい
優しすぎて俺は
怖くなるんだ
駅から歩いて10分したころには、俺の目の前には大きなマンションが建っていた。
マンションの周りはグルリと大きな壁で固められ、入口は横にも長く、縦にも高く、
細かい細工が施されている門がある。
その門からマンションまではレンガで造られた一本道で繋がれ、
その道の両側には横長の庭があった。
「・・・・・・・」
俺はそんな光景を唖然とした顔で見ていた。
そして、背中に冷や汗がでてくる
俺の勘違いだったらいいと何度も思う、その焦りで
―――― もしかして、此処って!!!!
楓先輩が門をくぐって、レンガを踏みながら俺に手招きしている。
「此処の12階が俺の部屋だから。あ、エレベーター付いてるからスグにつくよ」
「・・・・12階、エレベーター、俺の・・・部・・・・屋」
やっぱり此処って、楓さんの住んでるマンション!
しかも、ただのマンションじゃないだろう。
中に入ると、ガラス扉の奥に階段やエレベーターが見えた。
楓さんは自分の部屋のポストを見てから、扉の前にある機械に数字を打ち込む。
・・・・・セキュリティー完備のマンション
楓さんの住む高級マンション
扉が開く音がして俺は慌てて中に入った。すると扉はスグに閉じて、外の世界と遮断される。
体がとっさに動いてしまったけど、入ってしまって良かったんだろうか?
現在、楓の体だということを忘れてしまった庵はフリーズしてしまった。
楓はそんな庵の腕を掴んでエレベータの前に立って、上の矢印のボタンを押す。
「ほら、もう少しだからね。頑張って庵」
どうやら、楓さんは俺が痴漢にあった精神的ダメージの所為でフリーズしたんだと思ったらしい。
「あのー、楓さん此処って」
俺が声に出そうとすると、楓さんの笑顔に遮られた。
「あぁ~、大丈夫。親は来ないし、気ままな一人暮らしだからさ。
今は俺達、非常事態だからね。気楽に俺の部屋を使ってね。
あとで庵の家の人に連絡して今日は俺の家に泊まることにしよう。
怪我の手当ても早くしてしまいたいしねv」
「・・・・・はい」
何故かその有無を言わせない迫力に負けて俺は、頷いてしまった。
今日1日、楓さんの住まいにお泊り。
こんな事が他の奴にばれたら煩くなるんだろうな・・・・・特に、樹が。
そう考えると頭が痛くなってくる
――――― チ ン ッ !
エレベーターが1階につき、俺と楓さんはそれにのって12階まで上っていった。
チョコレート革命
・本編とはなんの関係もない番外編
・バレンタイン小説 (楓視点)
小さな笑みをこぼす唇
風で舞い散る赤い髪
君の全てに俺はいつも釘付けだった
「2月14日ですか?」
「うん、暇かな?」
俺達二人は学校帰りによったマックで団欒していた。
チラチラと回りが見てくるが、そんなの無視だ。
庵の顔がキョトンとした驚いた顔から、小さな笑みをこぼす
「何もありませんけど、行き成りどうしたんですか?」
「えっと、いや~・・・その日も一緒に帰らないかな~って思って」
俺は慌てて誤魔化しの言い訳を話した。本当のことなんて恥ずかしくていえない。
言えたとしても緊張しちゃって言葉に出せるかどうか・・・・
オロオロとうろたえている俺を庵はクスリと笑った。
俺はその浮かべる笑みに毎回心臓をドキドキさせている。
「別に構いませんけど、楓さんはいいんですか?」
「・・・・・え?」
「楓さんの想い人に渡すとか。楓さんなら行く手数多。
その日にも、たくさんの人に呼び出されるんじゃないんですか?」
庵の優しい笑顔に少し困った顔が含まれている
そんな顔に俺は・・・・
「・・・・・いや、そんな・・・事はないよ」
「そうなんですか?・・・・うーん、楓さんがいいんであればいいですけど」
庵が俺を恋愛対象と見ていないのは知ってる
庵はホモやゲイは嫌いで
ましてや
男なのに他の男にチヤホヤされている人間は嫌いなのだ
―――― 胸がズキズキと痛い
今、こんな風に庵と話せている
庵が自分だけに笑ってくれる
この状況だけでも幸せなはずなのに
庵との距離をもっと縮めたくなる
もっと傍によりたくなる
そして、庵を捕まえて自分だけの物にしたい
バレンタインデーに会う約束ができたんだからいいじゃないかと
自分に言いきかせるがやっぱり、その日に会うんだからチョコも渡したい
義理チョコだと思われてでもいいから渡せたらいい
14日まで後、3日。
今の俺はそれまでにどんなチョコを庵に渡すか考えないと!
こりすぎても手を抜きすぎてもだめ ほどほど加減の物を作らないと!
俺がそう考えに耽っていると
いつの間にか、庵の学校の前に立っていた。
人が疎らに通る門の前に俺は立って庵を待つ
此処がいつもの庵を待っている指定の位置
此処だと、どの教室からも見えて庵にもスグに見つけて貰える
俺は門を背に校舎を見ていた
庵、まだかな~v
校舎から視線を外して、回りを観察していると
校舎の横手にある植木の方に赤いものが揺れたのが見えた。
それはよく見ると、赤いハンカチ
それが背の低い木にひっかかっていたのだ。
誰かの忘れ物?いや、落し物か?
楓はそのひっかかっているハンカチをとると、汚れを払ってポケットにしまった。
後で庵と一緒に学生課に行って落し物を渡そう。
楓は門の方に戻ろうとしたが、裏庭に見慣れた赤い髪の少年がたっていた。
「庵!!!」
楓がその名を呼ぶと、大きな大木の下に立っていた男は楓に視線を向けた。
「あれ、楓さん。今日も迎えに来てくれたんですか?」
「あ、うん」
楓はそう返事をすると慌てて庵に近づいた。
一瞬心臓が止まるかと思うくらい怖かった
ただ、木の下に立ってその木を見つめている庵が
そのまま消えてしまうのではないかという不安に、胸がざわついた
この目と鼻の距離でさえ何故か怖くて仕方がなく
少しでも早く距離を縮めたくて、歩く早さがあがる
だが、楓は庵ばかり見ていて足元にある小さな穴に気付かなかった
楓が気付いたときにはもう体勢は崩れて、土の上に倒れそうになる
「!!!!!!」
「っ、楓さん!!!」
なんとか庵に抱きこまれた楓だが、庵も勢いに負けて地面に転倒。
もちろん、庵に抱き込まれた楓も一緒に
―――――― ドサドサッ!!!!!
楓は瞑っていた目を慌ててあけて、庵から退こうとしたが
何故か体の上に重みがあって動けない
「・・・・・へ?」
あれ、確か庵が俺を助けようとして俺を抱きしめて・・・・ん?
・・・・・・俺がいつ、下になったんだ?
楓は上に乗っている人物を庵だと思い肩をゆすった。
「庵、起き・・・て・・・・・」
なんか・・・・
なんかさ・・・・・・
自分の声が可笑しくないか?
幻聴か頭を打った所為か、自分の話してる声が庵の声とそっくりなような・・・・・
「・・・・っ、楓さん大丈夫ですか?」
俺の上に乗っていた男が体を起こして、俺を見下ろしてきた
その光景に俺は唖然とする。
・・・・・・・なんで、俺が俺の上にのってるんだ?
目の前の俺は唖然とした顔をして見下ろしてくる。
「・・・・楓さ・・・・・・ん?」
「・・・・庵・・?」
『なんで、俺が目の前にいるんだぁあ!!!!』
俺達二人分の叫びは大きな空に吸い込まれていった。
どうやら俺達、中が入れ替わってしまったようです。
・読む前に・
1.本編「素直な彼・困った彼」とは関係ありません。
2.庵と楓が入れ替わります。
3.BL小説です。
4.シリアス(死や血の表現が少しあり)
以上を理解できましたら、下へどうぞ。
青い空から降り注がれる陽射しは温かく優しい。
そんな明るさが不意に遮られた。
「おーい。庵、寝てるのか?」
「起きてるよ、樹」
俺の前の席に樹が座っているのでそちらに視線を向けた。
回りを見渡すと席を立ち、皆帰宅しようとしていた。
「お前さっきから空ばっかり見てて動かねーから、寝てるのかと思ったよ」
俺はそれを聞いて苦笑した。
「目を開けたままかよ。ちょっと、空を眺めていただけだよ」
そんな俺を樹はそわそわした感じで見ている。
・・・・なんだ?
「なぁ、庵。2月14日って誰かと会う約束したか?」
「・・・・いや、してないけど。なんだ、どうかしたのか?」
俺のその言葉を聞くな否や樹は座っていた椅子から勢いよく立ち上がり
「嘘だろ!!!」となんとも大きな声で叫びだした。
おかげで、現在俺と樹はクラスに残っている生徒の視線にざっくり刺されている。
俺は溜息をついて樹を席に座らせた。
「・・・・いいから座れ。そして、落ち着け。2月14日って言えばバレンタインデーだろ?
なんで俺がそんな日に誰かと約束してなくて、お前に叫ばれなくちゃいけないんだ」
樹はそんな俺の言葉を聞くと、俺から目をそらして「ヤベー」なんて顔をしている。
――― たく、何だっていうんだ。一体・・・・
「俺に恥を一瞬でもかかせたんだ、友達なら吐けるよな?っていうか吐けよ馬鹿樹」
「・・・・なんか、その言い方ムカつくんだけど、・・・けど、しゃーねなぁ」
その樹の「しゃーねなぁ」って顔が、俺が此処で一肌二肌脱がねばという使命感が
見て取れて、俺はうんざりした。
「例えば、『美人で癒し系で気が利いて、お金持ちなんだけどそんなの自慢しない
俺達よりも一つ年上の人』なんかとは、なーんにも約束も話もしてないのか?」
「・・・・・・お前、もしかして楓先輩の事をいってるのか?」
「うわぉv さっすが庵~!!!わかってるじゃん!」
「・・・・・それだけ特定の人物の特徴言われて、わかんない方が馬鹿だろうが!」
「まぁ、そうだな。・・・・で、何にも話してないのか?」
「その日も普通に放課後こっちに来るみたいな事は言っていたけどな」
「わ!マジで楓さん来るの!」
――― なんでコイツがこんなに喜んでるんだ?
「お前、とうとう江田から楓先輩に乗り換えたのか?」
「ちちちちちちっ違うって!えっと、えーっとな、楓先輩って高嶺の華って感じで
こんな風に知り合えて嬉しいな~なんて」
真っ赤な顔をして慌てる姿を見ていると、俺の頬に笑みが浮かぶ。
「・・・・・浮気だと、江田にちくるネタができたな」
「ば、馬鹿野郎!!!そんな事したら、俺がお仕置きされるだろーがぁ!!!」
「いや~愛って偉大だな、樹」
「い~お~り~様!ちょっと黙っててよね!マジでお願いだから!!!」
「あーはいはい」
俺はそう生返事をしながら自分の鞄に教科書やノートを入れて、立ち上がった。
鞄を掴み俺は教室の扉を開ける。樹は困った顔をしながらそのまま席についている。
もうすぐ、1階下の教室にいる彼氏がくるのだろう。
俺は樹に向かって手を振った。
「じゃーな、樹。また、明日」
「おう!って、本当にさっきのこと江田に黙っとけよ!」
「わかってるって・・・・お前も、あんまり俺で遊ぶなよ。
俺みたいな奴を楓先輩が相手してくれるわけないんだからな」
―――― バンッ・・・・・・・
教室の扉が閉まり、教室にはもとのざわめきが戻った。
次々、クラスの生徒が帰っていく中、樹は庵が出て行った扉を見つめていた。
「・・・・庵の鈍感野郎が」
そんな教室で発した小さな言葉は
ざわめきの中に消えていった
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この学校には一本の大木がある
それは、大正の頃からあると言われている大きな木
その木にはある小さな噂があった
昔々、仲の良い夫婦がいました。
夫は働き者でとても思いやりのある優しい人
妻はこの村では評判の美しい人でした
そんな夫婦は毎日幸せに暮らしていました
しかし、村での働き分だけでは暮らしていく事が難しくなり
夫は妻をおいて隣の町に出稼ぎに行ってしまったのです
そして、何日も何週間もたってから夫は村に帰ってきました
妻の元に帰ろうとする夫は村人にある事を聞いてしまいます
「あなたの妻は浮気をしている」
相手は自分が出て行った数日後にこの村に来た見目の美しい若者
話によれば、妻はその若者とよく会い仲良くしていると聞きます
夫はその話を聞き「やはり」と思い、家路から離れた山の中に入っていきました。
妻は美しい。そして、若いくて器量もいい。
そんな人と自分が一時でも一緒になれた奇跡を嬉しく思い
そして、一人になった孤独感と裏切られた憎しみで胸が一杯になり
男は仕事用の刃物で首を切り、死んでしまったのです
そして、その後。夫を探しに来た妻がその姿を見つけるのです。
本当は妻はずっと夫を待っていました。
若い男の事など眼中になく、ずっと夫だけを待っていました。
ほんの小さなすれ違いが二人を引き裂いてしまったのです。
この木はそんな無念の夫の血と、
嘆き悲しんだ妻の涙で出来たものだと言われている
ザァアアアアアアアアアア――――・・・・・・・・・・
風で大木の葉が揺れ 緑色の葉が踊り落ちる
夫が死んだのは妻を苦しめたくなかったから
けれど、妻はその所為で嘆き悲しんだ
この話は 人が人に期待し 信用したばかりにおきた 悲劇の惨劇
俺にはそう思えた
そんな木の下ではある事をしてはいけない
もし、してしまうと
『呪い』がかかるという
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